−中規模太陽光発電の実用性に関する研究−
発電システムとインバータの特徴

浅川発電所所長 浅川初男

1999年3月26日をもって東京電力より委託をうけた「太陽光発電の実用性に関する研究」を完了した。今回の実験の最大の課題である、発電システムと、開発したインバータについて性能と特徴を報告する。総数293枚に及ぶ多種類の太陽電池パネルを使用し、IGBTを使用して小型化した単相三線(動力)20kwインバータを試作して同一系統連係ポイントで実用運転を行った結果、多種類のパネルに関して支障無く運転でき、気象条件の急変に対応したプログラム制御で、安定した発電能力を発揮した。今後10kw以上の住宅用太陽光発電システムや、200V使用の家庭電気製品の普及、電気自動車、動力用電源などに対して、一台のインバータで対応できる事を実証した。

1.実験結果
開発前期と後期におけるインバータの性能を比較した結果を示す。

(1)インバータの立ち上げ、始動、発電開始のプロセス

図1.1999年3月23日の発電グラフ

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発電開始時のA領域部分で比較すると、発電のためのスイッチは同じように入っているが、動き出すのに必要な太陽電池からの電圧を確認する回数が(下がる部分)図2では5回で、その内2回始動するのに必要な電圧が不足しているのを確認し、3回目で動き出すのに必要な電圧を確認。4回目で安全な始動ができることを確認、5回目でインバータ始動となって発電開始。図1では始動プログラムの改良により、天候が快晴時は太陽電池からの出力が、日の出と共に滑らかに得られるので、動き出す為に必要なチェック行程を最小限にすることが出来、インバータの始動となった。

図2.1998年3月2日の発電グラフ

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図3. 1999年1月17日の発電グラフ

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また始動電源の確認が必要なときは、設定条件以外であれば、確認するプログラムを追加する。この場合を図3に示す。これらの始動タイミング設定は、実験以前のデータに基づき設定したもので、その都度改良を加えた。セッティングおよび始動タイミングも場所に応じて調整できる。

(2)インバータの発電システム

 実験に使用したインバータのシステムは電圧型PWM制御方式で、交流出力側の電圧を基準正弦波に、かつ力率調整により潮流を制御する方式である。一般的にシステム側で電圧を決める必要がある独立型システムに用いられている方式で、今回の特徴は一定出力電圧を一定の周波数で発生するCVCFと呼ばれる方式で設計した。また、太陽電池からの最大電力を追尾し、システムにかかる負担を制御した。さらに始動時や停止時に急激な電圧変化を起こさないために、電圧制御の特徴であるソフト・スタート、ソフト・ストップで運転でき、系統連系点にかかる負担の軽減を図った。これらはパワー・エレクトロニクスと言われる富士電機製600V-300AのIGBTを使用する事によって、電子回路の単純化が図れた。

PWMインバータ: PWM制御はパルス幅変調を利用して制御する方法で、図5のように平滑された直流電圧の大きさを一定のまま、パルス状の電圧幅を変えることにより、平均化された電圧の大きさを出力して制御する方法であるが、PWMには次のような方法も運用されている。
3線式の回路構成では発生できる線間電圧は正、負、ゼロの3レベルしかないが、基本波1サイクルの間にオン・オフのスイッチを繰り返し、出力側に適切な幅のパルス波を並べることにより、平均として正弦波に近い波形を発生させることが出来る。これをパルス幅変調という。出力波形の高調波を低減し、比較的簡単な原理でパルス・パターンを生成できるために、様々な変調方式が研究されている。図6に電圧形インバータのPWM手法として良く用いられている正弦波−参画波比較方式を示す。
図7は交流モータの高性能駆動に使われる電流追従形ヒステリシスバンドPWM方式である。

(2-1) 通常発電:図1,2,3は通常発電の状態であるが、図4は最大電力追尾がなされていない状態を示し、太陽電池からの電圧が凸形になっている。両者を比較すると、図4のインバータ制御幅が異なるのが読み取れる。

図4. 1998年9月9日の発電グラフ

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(2-2) 太陽電池種出力不安定時の発電

図8. 1998年9月7日の発電グラフ

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図8は天候が非常に不安定で太陽電池からの出力が僅かにも拘らず、正確に発電を行っている状態を示す。通常この種のインバータは、この様な低出力の場合、安全を確保するため、電源表示だけONを示し、待機状態で過ごすのが一般的である。余り低い出力時にインバータを動作させると、逆流が発生する危険があり、太陽電池からの出力が十分である状態での作動が最も安全で、電気を系統に送り出す制御も楽なためである。

(2-3) 太陽電池出力急変時の発電
 天候急変時の発電状況を図9に示す。記録紙からはみ出すほどの激しい変動が見られる。この様な場合、一般的なシステムでは平均的な位置に基準を置き、暴走が起きないように発電するが、図から変動に追従して発電していることが判る。

図9. 天候急変時の発電グラフ

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(2-4)系統側の異常(停電時)
 停電時の対応は分散型電源系統連係技術指針に基づき設計し、十分な対応をした。システムの一部を手直し、内部に蓄電池設備を付加することによって、無停電システムに出来る。(蓄電池が高価なため、余り勧められない。将来、値段がシステム価格の20%以下になれば、考慮する価値がある)。

(3) 発電終了時のシステム
 基本的には立ち上げの逆でよいが、それでは電池出力不安定時に発電停止になる。従って立ち上げより難しい面を持っている。停止するか待機するかの判断は、過去5年間のデータに基づき、太陽電池の出力がある時点から滑らかに低下をし始める部分を捕らえる方法で決定した。しかし、地域格差がある事を考慮しなければならない。


結論

 試作したインバータを用いた実験から、目標を上回る結果が得られた。特に同じ連系点で、単相三線式と三層三線式(動力)が系統連系できたことは、今まで無かったことで、今後の太陽光発電システムの発展に寄与するものと確信している。

 終わりに実験にご協力ご支援下さった東京電力の関係各氏、ならびに多くの方々に厚くお礼申し上げます。


参考文献

            1. 図解電気の第百科
            2. 富士電機 ンシリーズIGBT 取扱説明書

追記
東京電力の委託研究申し込みから実施に至る経過の記録

 平成9年3月28日に「東京電力は太陽光発電を普及させるため、市民団体へ支援活動を、研究活動を支援」なる記事が新聞発表された。一千万円の研究助成の項目に魅力を感じ、かねがね抱いていた研究課題が実行出来るチャンスと思い、大友氏と二人で策を練り応募に踏み切った。

山梨県北巨摩郡大泉村谷戸浅川太陽光発電所